第一回 絢爛であり剛健である

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板前男児,千曲乃湯しげの家,吉池照明,絢爛であり剛健である

「美しく、力強い」。
長野県・戸倉上山田温泉の旅館「しげの家(しげのや)」の料理を食べると、いつもこの印象が沸き上がってくる。
素材の持つ鮮やかな色彩を主役に運ばれてくる料理は、組み合わされる器も変幻自在で、シンプルな形に華やかな柄が来たかと思えば、大胆な造形に渋い色目と存分な変化に富んでいる。
そして盛付け、味の両面において、足すことと引くことの絶妙な案配が客をうならせる。
そこには、オーソドックスに見えて印象に残る新しさ。新しく見えるようで裏側に息づく伝統の技法が散りばめられている。
それぞれの料理の大きさ一つをとってもそうだ。素材の歯応えと旨味を知り尽くした熟練の技術をベースに、こちらを飽きさせない遊びが随所に見え隠れしてくる。

板前男児,千曲乃湯しげの家,吉池照明,吸物椀 鴬椀 豌豆すり流し桜海老道明寺

「豌豆(えんどう)すり流し」に、「桜海老道明寺」が鮮やかに浮かぶ「吸物椀」。「独活(うど)」や「茗荷(みょうが)の子」の白が、緑と赤のコントラストを程よく調和させている。出汁と溶け合う「えんどう豆」の自然なコクと舌触り、桜海老真丈の上品な甘みともちっとした歯応えが堪らない。独活と茗荷の苦みや辛味も味のアクセントになっている。

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板前男児,千曲乃湯しげの家,吉池照明,造里

主役の一つである「造り」は、自信みなぎる正統の佇まい。切り口の鋭さが素材の新鮮さと包丁技の冴えを物語る。彩りに心を配った精巧な盛付けと、艶やかな器の組み合わせが本道を感じさせてくれる。魚介はもちろん信州の食材ではないが、献立の流れの中で何一つ違和感を感じさせない。本格的な会席料理の正当性と味そのものが説得力に溢れている。

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板前男児,千曲乃湯しげの家,吉池照明,名物 信州牛のしゃぶしゃぶ

本来、職人の腕を見せにくい「しゃぶしゃぶ」のこだわりは出汁。上質な「本枯節」のだし汁に加え、鍋にたっぷりの「しじみ」を入れることでたまらない旨味を引き出す。菊の花の黄も鮮やかなアクセント。とろけるような霜降りの牛肉が旨いのはもちろんだが、透けるほど薄くスライスされた根菜類が、軽やかな歯応えとともに口の中を楽しませてくれる。
 
30年近く「しげの家」の料理長を務める作り手の名は「吉池 照明 よしいけ てるあき」。穏やかな職人に見えるこのベテランは、実はやんちゃで挑発的だ。鉄壁の技術をベースに、豪速球も変化球も縦横無尽に織り交ぜてくる。「これにこれ合わせると旨いんだよ」「この歯応えを楽しむには、大きさはこれしかないよ」言葉数の少ない本人の想いは、料理を通じて存分にこちらへと語りかけてくるようだ。

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板前男児,千曲乃湯しげの家,吉池照明,プロフィール画像 板前男児,千曲乃湯しげの家,吉池照明,yoshiike teruaki

高山の日本料理店にて修行を重ね、1985年より故郷戸倉上山田温泉の宿「しげの家」料理長に就任yaeno-7_s1
戸倉上山田温泉 千曲乃湯しげの家
www.shigenoya.co.jp

〒389-0807 長野県千曲市大字戸倉温泉3055