第一回 愛しく美味しい皿たち

板前男児,茜彩庵山水,第一回メイン画像

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群馬県・藤岡市に流れる利根川水系の「神流川」。関越自動車道「本庄児玉インターチェンジ」から、緑色の濃い川に沿って車を走らせれば、冬と春、年に二回咲く天然記念物の冬桜をはじめ、深い緑に覆われた山々が徐々に姿を現してくる。その先にあるかつて鬼石町と呼ばれた小さな町「保美農山」には、下久保ダムによって生まれた湖「神流湖(かんなこ)」がある。広い空の表情をまるで水墨画のように湖面に映し、春になれば湖周辺には「染井吉野」や「八重桜」が咲き誇る。あまりに静かで雄大な水景を眺めていると、ここが都心からわずか100kmの距離に位置することを忘れてしまいそうになる。
この神秘的で美しい湖を一望する宿「茜彩庵 山水(せいさいあん さんすい)」の料理長兼庵主が、今回紹介する板前「西井聖事(にしい せいじ)」である。

 
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アスパラづくしの先付八寸は、削り節をのせた「ピリ辛揚げ煮」、上州もち豚で巻いて松田マヨネーズの特製ソースをかけた「焼き」、桜チーズをそえた「茹で」と、三種類の食べ方で食材の変化を楽しむ。「驚くほど」と料理人が自信を持つ、甘みのあるアスパラ自体の旨さを徹底的に味わう一皿。手折った桜の小枝も春らしさを伝えてくれる。

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上質な川魚の生息地である神流川の支流「船子川」で採れる、サケ科の「ブラウントラウト」の酢の物。おぼろ昆布と和えることで、淡白で上品な身肉に旨味が加わる。散らした桜型の長芋やグリーンピースにシソの葉も味と彩りに変化を与えている。酢は胡麻酢を使うことで爽やかな酸味とともにコクを効かせている。

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水が冷たく魚の身が引き締まる「船子川」で成長した「岩魚」に、梅肉を和えることで川魚の臭みを消した造り。梅は日本で二番目の生産量を誇る群馬の名産品の一つでもある。柔らかい岩魚の身肉と梅肉に、蛇の目に切った胡瓜をそえることで歯応えと彩りにアクセントをつけている。土台に敷いた葉山葵も涼感を誘う。

季節の変化と食材を大切にした、可憐とも言える繊細な料理と裏腹に、西井自身は人なつこい笑顔と朗らかな冗談で相手を笑わせるタイプだ。しかし明るく快活なその人柄からは、照れくささを隠しながら周りに気を配る優しさがにじみ出ている。
そんな西井には、40歳を過ぎて学び直した本格的な日本料理への想いと郷土のこだわりがある。

 
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高崎で修行後、家業のドライブインを継ぐ。2007年リニューアルの「茜彩庵 山水」の庵主兼料理長yaeno-7_s1
群馬県藤岡市(旧鬼石町)茜彩庵 山水

http://www.san-sui.jp/

〒370-1403 群馬県藤岡市保美濃山875